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『Asylum Piece』セルフライナーノーツ前編 -月に手を伸ばす櫻の少女へ捧げる-

セルフライナーノーツ サクラノ詩

この駄文をSCA-自氏、及び長山香奈に捧げるー

 

※この文章はノベルゲーム『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-』のネタバレを含みます。

 

 先月、始めての作品『Asylum Piece』をFreeDLリリースしました。

  今回はそのEPのセルフライナーを書くのだけれど、1曲1曲の解説の前にどうしても書かなくてはいけないことがある。(各曲のライナーや元ネタは後日、後編で書くつもり)それは僕にEPを作らせるきっかけを与えてくれたノベルゲーム『サクラノ詩』および、そのサブヒロインの長山香奈についてだ。だから今回の記事はサクラノ詩について大まかに触れることにする。焦点を当てるのがサブヒロインの長山香奈のため、全貌については触れないのだけれど。

  

 本題に入る前に少し『サクラノ詩』をプレイ前の自分の状況や心境を書くことにする。当時の僕はインディポップバンド、Boyish(全国流通作品を4枚リリース)とFor Tracy Hyde(先日P-VINEから全国流通されてもう皆さんお馴染みかと)のソングライター管梓氏のサイドプロジェクトTenkiameというバンドに所属していた。ただ当時の僕は音楽活動をしていたというよりはバンドメンバーとつるむのが楽しくてバンドをやっていたし、2つのバンドのフロントマン、岩澤氏と管氏の絶対的な才能の前に僕は陶酔していたし、自分から音楽を生み出すという事はしていなかった。そこにどこか負い目を感じている自分がいたが、あの2人には敵わないと言い訳を浮かべては、努力することを放棄していた。

 

 さてここから本題である。僕はそんな心中の時に、友人から君は絶対にこの作品をやるべきだと勧められた。『サクラノ詩』の大まかな内容に触れると、絶対的な絵の才能を持った主人公、草薙直哉を中心に学園の美術部員の少年少女達と協力して1つの作品を作ったり、芸術の祭典『ムーア展』で入賞すべく各々が作品を作っていき、その中で芸術とは何か?自分達はどう芸術に向き合うべきなのか?また人生における幸福とは?と哲学的な内容にも踏み込んでいく絵描き達の壮大な物語だ。

 

物語の1つの山場である部員全員が協力して1つの作品を作り上げるシーン

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 僕はこの美術部員達が力を合わせて1つの作品を作り上げるシーンや、個別ヒロインの√で各々が芸術に真剣に取り組んで、その後自分はどのように芸術と向き合っていくのかが描かれるシーン(ある√では芸術の道は捨て主人公と結ばれ、幸せな日々を過ごしたり、作り手としては諦めたが芸術誌の編集者として絵と向き合うことになったり、プロの絵描きになったりと様々である)で既に心を打たれて、1回自分も本気で音楽と向き合ってみる必要があると感じ始めた。

 ただ頭にハンマーで殴られた様な衝撃が襲い、本当にEPを制作する決意が固まったのは、"月に手を伸ばす櫻の少女"すなわち長山香奈が登場してからだ。

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 彼女は幼少期に自分が天才であると思っていたが、主人公、草薙直哉の絵と出会ってから自分が凡人であると自覚し、主人公を一方的にライバル視し、物語の後半から主人公の周辺を掻き回し始める。以下、作中の"天才"である主人公に向けた彼女の発言を引用する。(この名言のマシンガンが凡人である僕にどれほど響いたか言葉にすることは出来ない)

 

「自分には才能の欠片も無いと分かっているのに、私はまだ、絵を描くという事を諦めきれていないのだから…」

「たぶん、諦められないのは、私がバカだから」

「世の中はクソみたいなもので溢れている」

「この世に本物なんて、ほとんどありはしない」

「それでも、私には本物がわかる」

「だから…、自分が何ものであるかも分かってしまう…」

「自分がどの程度のものか…」

「自分が『何処から来て、何処へ行くのか』…凡人である私にはそれがわかってしまう」

「凡人には、来た場所も、その後、行くべき場所も簡単に分かってしまう」

「分かるけど…分かってしまうけど」

「けれども、私は、私が望んだ場所に行きたい」

 

 僕は泣いた。みっともないほど泣いた。草薙直哉という天才を前にして1度は心が折れた凡人、長山香奈。けれども彼女は天才だけが手に入れることの出来る月を望む。どんなことをしてでも。僕は管梓という天才を前にして自分が月を手に入れることもそのための努力も放棄していた。自分の醜態が悔しくて、彼女の歪だけど真っ直ぐな姿勢に焦がれて泣いた。彼女は続ける。自分は凡人だけど、努力によって才人にはなれたと。

 

「才能は凡人を裏切りますが、技術は凡人を裏切らない」

「そして勝つためにはどんな手段を使ってでも勝つ」

「天才の価値は、才人にしか分からない」

「私みたいな、中途半端な才能、天才になりきれない、かといって凡人でもない、そういった人間でしか分からない」

「私は天才を愛し、そして憎むのよ」

「人なんて、大半が幻みたいなものよ。大事な人間、大事なものなんて少ししかない。だから、私は大切なものだけを信じるの」

 

 そして『ムーア展』終了後、主人公、草薙直哉は賞を取ることも叶わず、親友も事故で失ってしまった所で物語は数年後へ。そこでは草薙直哉は失意のまま美術の非常勤講師として母校で働いていた。そしてその彼の前に多くの努力を重ねた長山香奈が再び草薙直哉の前に姿を現す。芸術化集団『ブルバギ』に所属し世間を騒がせ、自信をつけた彼女が。

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  芸術化集団『ブルバギ』の活動は奇抜なパフォーマンス、アバンギャルドな方面など、まっとうな方法で勝負しているわけでは無い。彼女もそのことは自覚している。けれども、どんなことをしてでも彼に勝ちたい、月を手に入れるんだという彼女の姿勢に僕は感服した。

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  そして彼女のそんな姿に火をつけられた草薙直哉は再び筆をとる。そしてかつての仲間や生徒達の力を借りてもう1度作品を作り、彼女にこう述べる。

 

「多くの人間に認知させるための作品か?マスコミに騒がれるための作品か?」

「あれは他の誰かではない。遠くの誰かのために描いたものではない…。あれは、俺が、俺自身のために、作り上げた作品だ」

「我々が何のために作品を作るのか。それさえ見失わなければ問題無い…。そこに刻まれる名が、自分の名前では無いとしてもだ…」

 

 僕はこの草薙直哉の発言にもノックアウトされた。そうだ.、長山香奈の様にどんな手を使っても、例え他人に醜いと思われようが、そして草薙直哉の発言の様に誰のためでも無い、自分だけのために。自分が今後、音楽にどう向き合っていくか結論を出すために。だから僕は、100曲近く僕が好きなバンドの曲をコピーした。アレンジ能力が無いから、過去のマスターピースから露骨な引用をした、歌詞も文学/ノベルゲームから膨大な量の引用/カットアップをした。下手な歌を今まで僕を救ってくれた物語達に向けて、精一杯の愛を込めて唄った。多くの人にアレンジを依頼した。(奇しくもサクラノ詩』のボーカル曲のミックスをしたviewtorinoのKensei Ogataさんにもアレンジをして頂いた)

 "凡人の意地"を見せてくれた長山香奈の様に僕はなれただろうか?今回のEP収録の6曲目の「ラピスラズリ」の歌詞の一節

 

"教会の壁画 枯れた櫻と壊れた時計 それでも少女は微笑んで夕陽を追いかける"

 

 この曲中の少女とは長山香奈のことだ。僕なりに彼女に精一杯の敬意を込めて書いたつもりだ。 

 そして僕はEPを制作する中でたくさんの人とやりとりをした。それは"素晴らしき日々"であったと確信を持って言える。正直僕にとって他人の評価はどうでもいい。(もちろん褒められたら嬉しい気持ちはあるけれど)それでいいんだと『サクラノ詩』は僕に教えてくれた。そして僕は今後も音楽制作ユニットとして音楽を続ける決意が固まった。理解のあるメンバーも加入してくれた。書きたい世界がまだまだたくさんあることに気づく。それは僕が愛して止まない"物語達"への敬意であったりするわけだけど。だから今回のEPに関わって頂いた総勢19名の皆さん、そして『サクラノ詩』という物語と長山香奈という人物を生み出してくれたSCA-自氏に感謝の意をここに表します

 

P.S.

 このセルフライナーノーツも自分のためだけに書いたから、もし本記事を見てまだEPを聞いていない人がいてもそれでもいいと思ってる。けれどもし創作をしている人やこの記事を読んで『サクラノ詩』に興味を持った人がいるなら是非プレイして欲しい。僕の語彙力や頭脳では『サクラノ詩』の本質を1%も書くことが出来なかった。だから是非購入してプレイして欲しい。その時必ずあなたは、何かを感じとるはずだから。

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サクラノ詩』公式HP

サクラノ詩

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