終末の歩き方




 アルバムを出しました。そのアルバムについての雑記です。
 聞いてくれる人がいたならアルバム単位で聞いて欲しいなということと、物語仕掛けで歌詞を書きたかったので、連作短篇集みたいな作品に出来ればいいなと思って作りました。
 終末の世界で、少年と少女が出会い、時代も場所もこえて旅をして、様々な終末の形を見送る、ありがちな題材を選びました。言いたいことはだいたい言えたので、各曲一言ずつと今回アルバムを作るにあたって読み返したり、手を伸ばした書籍を並べておきます。

1.少年は亡霊の街を巡る
 無気力に生きていた少年が終わりに向かう世界で、運命の出会いを果たす......。という導入の曲です。
 打ち込み楽器が多かったので、無機質にならないようにパーカッションもタンバリン、シェイカー、トライアングル、コンガと生で録音しました。

2.少女は終末の夢を見る
 tr1で出会う孤独な少女の曲です。

3.マリオネットは箱庭で歌う
 タイトルはProject Freyaの同名ノベルゲームから。小品ですが中々の良作です。
 壊れかけた機械の少女が終わる世界に愛を込めて歌う曲です。一番最初に作った曲でリードトラック的なつもりでした。トラック数も72トラックありました。方向が決まるまでミックスに苦労しました。
 トイピアノカリンバとかも無駄に生で録音しています。

4.地の果て 至上の時
 タイトルは中上健次の同名小説から。特に内容に関係はありません。余談ですが氏の血筋の呪い、サーガ的世界は凄く好きなので、音楽に限らずどこかで追及していきたいです。
 曲の内容は僕がFragile Flowersで突き詰めていった、セカイ系的な歌詞の総決算だと思っています。メロも今作で一番いいのでは。Cメロからの歌詞は中原中也の「別離」を意識しました。
 こう考えると、文学作品といわれる作品とセカイ系の表現はどこかで繋がっているのかもしれません。

5.星々の海をこえて
 タイトルはグレゴリー・ベンフォードの同名小説から。これも内容は関係ありません。小説のほうもいかにもB級SFなのですが、響きがよかったので。
 ありがちな彗星があとx日で地球に衝突して人類が滅びるという内容です。今回のアルバムの表現は、ありがちで愚直な表現を恐れないという意思を貫きました。
 轟音と電子音で引き裂かれる恋人たちを表現できていたら嬉しいです。

6.水の中の八月
 タイトルは石井岳龍監督の同名映画から。世紀末の雰囲気を匂わせつつ、青春映画としても秀逸な映像が美しい、セカイ系的良作です。
 ノストラダムスの大予言があたり、恐怖の大魔王により世界が水没するという曲です。深いリバーブがかかったギターやテンポディレイを使って水の中に沈んでいく二人を表現しました。

7.天国の日々
 タイトルはテレンス・マリック監督の同名映画から。氏の作品も大好きで、世界観も素晴らしいです。
 世界が終わるからこそ、未来にも過去にも縛られずに生きられるという曲です。Aメロは、カットアップ的手法で歌詞を書きました。

8.灰瞳に機す
 タイトルはお茶みどりの同名ノベルゲームから。同人作品ならではの拙くも熱量たっぷりの、大好きな作品です。選択肢が一つしかないというのもポイント。
 ダークアンビエントポエトリーリーディングの繋ぎ的な立ち位置ですが、とても気に入っている曲です。内容は右か、左かを選べという極端な思想の曲ですが、言いたいことは逆で、極端な思想は世界を滅ぼすというつもりで作りました。実際、今の世界は多数の意見が共存することより、真っ二つに世界を線引きしているように思えてなりません。それはとても危険なことのように思えるのです。

9.遺伝子は崩壊の序曲を奏でる
 遺伝子操作による人類の末路の一つを描いた曲です。意欲作のつもりです。
 この曲の表現は大袈裟ではなく、実際にクリスパーという技術を用いて、狙った遺伝子を改変したり、産まれてくる子どもを強化可能な段階まできているのです。
 実際に中国では、遺伝子操作を施したエイズにかからないとされる子どもが産まれています。マンモスの復活や毒ガスを放つ昆虫、生物兵器としてゲノム編集の技術がくるかもしれません。
 病気の原因となる遺伝子を操作するに留まらず、劣った性質を持つ遺伝子を排除し、優れた性質を持つ子どもだけが産まれる時代がくるかもしれません。しかし、その優劣の線引きはどこで引かれるのか?ナチズム的優生学の復活にならないのか?遺伝子の編集はどこまで許されるのか?シンギュラリティが約20年後に迫った今、遠い未来の話ではないのです。
 アレンジもツインドラムで、ボーカルとドラムを歪ませ、45トラックあるのでとても苦労しましたがとても気に入っている曲です。

10.電気羊は楽園で殺戮を始める
 電気羊=AIと宗教的天国の話です。宗教というものは矛盾だらけで(宗教そのものは否定しません)、AIが人間の頭脳を越えた時にどのように対応するのでしょうね。この曲のように宗教を排除するのかそれとも......。

11.天使は廃園で祈りを捧げる
 支配者たちの行き過ぎた政治の末路とキリスト教的終末、人間の醜悪な部分と神の無慈悲な部分を描いた曲です。千年王国の民に選ばれなかった少年と少女は終わりなき冬を過ごすことになります。

12.渡り鳥は氷河の国で眠る
 渡り鳥=少年と少女です。二人の旅の終点です。そして二人が得たものの答え合わせです。
 このアルバムの曲の大半は、ベースにルートとコード感を任せ、ウワモノはワンコードで突き進むアレンジで、この曲も該当するのですが、この曲は、計7trのリズムと構成音の違うアルペジオを弾いていて独特の浮遊感を出せたと思っているので気に入っています。

13.終末の過ごし方
 タイトルはアボガドパワーズによる同名のエロゲから。終末における素朴で繊細な少年少女の心境を描いたとても好きな作品です。
 最後の歌詞が全てです。小説において最後の一文に説得力を持たせるために、展開を構築する作品が大好きなのでそれにならいました。

あとがき
 今回のアルバム制作で色々機材を揃えたり、ミックス技術の向上だったり、楽器を練習したので、表現の幅が広がりましたが、やはり自分が完全に納得できる作品が出来なかったので、最低もう一枚ずつEPとアルバムは作りたいなと思っています。EPは『SWAN SONG(4 YOU)』というタイトルでシンセの割合を減らした、また違った表現をした作品を。アルバムは二枚組で、今回の表現を更に突き詰めた、一枚目と二枚目で相対する詩と音楽を徹底的に突き詰めた作品『Antinomy』というアルバムを作ろうと思います。28歳になるまでに、遺作になっても悔いの残らないように頑張りたいです。

インスパイアされた書籍一覧

国内小説
藍内友紀(2018)『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』早川書房.
秋山瑞人(2001)『イリヤの空、UFOの夏 その1』KADOKAWA.
秋山瑞人(2001)『イリヤの空、UFOの夏 その2』KADOKAWA.
秋山瑞人(2002)『イリヤの空、UFOの夏 その3』KADOKAWA.
秋山瑞人(2003)『イリヤの空、UFOの夏 その4』KADOKAWA.
伊坂幸太郎(2006)『終末のフール』集英社.
市川拓司(2013)『こんなにも優しい世界の終わり方』小学館.
伊藤計劃(2007)『虐殺器官早川書房.
伊藤計劃(2008)『ハーモニー』早川書房.
海猫沢めろん(2014)『左巻キ式ラストリゾート』講談社.
江波光則(2015)『我もまたアルカディアにあり』早川書房.
葛西伸哉(2004)『世界が終わる場所へ君をつれていく』メディアファクトリー.
粕谷知世(2011)『終わり続ける世界のなかで』新潮社.
佐藤友哉(2007)『世界の終わりの終わり』KADOKAWA.
杉井光(2010)『終わる世界のアルバム』アスキーメディアワークス.
谷川流(2005)『絶望系 閉じられた世界』KADOKAWA.
知念実希人(2018)『神のダイスを見上げて』光文社.
つかいまこと(2015)『世界の涯ての夏』早川書房.
津原泰水(2009)『バレエ・メカニック』早川書房.
恒川光太郎(2018)『滅びの園』KADOKAWA.
中村文則(2014)『教団X』集英社.
中村文則(2017)『R帝国』中央公論新社.
似鳥航一(2017)『この終末、ぼくらは100日だけの恋をする』KADOKAWA.
橋本佳典(2005)『終末は君と』日本文学館.
長谷敏司(2001)『戦略拠点32098楽園』KADOKAWA.
一二三スイ(2012)『世界の終わり、素晴らしき日々より』KADOKAWA.
一二三スイ(2013)『世界の終わり、素晴らしき日々より2』KADOKAWA.
一二三スイ(2013)『世界の終わり、素晴らしき日々より3』KADOKAWA.
古橋秀之(1997)『ブラックロッドKADOKAWA.
古橋秀之(2005)『ある日、爆弾がおちてきてKADOKAWA.
柳瀬みちる(2018)『明日、君が花と散っても』KADOKAWA.
山田宗樹(2018)『人類滅亡小説』幻冬舎.
萬屋直人(2008) 『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』KADOKAWA.

海外小説
ジョン・ウィンダム(2018)『トリフィド時代 (食人植物の恐怖) 新訳版』中村融訳,東京創元社.
ポール・オースター(1994)『最後のものたちの国で』 柴田元幸訳,白水社.
アンナ・カヴァン(2008)『氷』山田和子訳,バジリコ.
アーサー・C・クラーク他(1975)『破滅の日』福島正実他訳,講談社.
ルフレッド・コッペル(1962)『最終戦争の目撃者』矢野徹訳,早川書房.
ブアレム・サンサル (2017)『2084 世界の終わり』中村佳子訳,河出書房新社.
メアリ・シェリー(2007) 『最後のひとり』 森道子他,英宝社
ネヴィル・シュート(2009)『渚にて 人類最後の日 新版』 佐藤龍雄訳,東京創元社.
オラフ・ステープルドン(2004)『最初で最後の人類』浜口稔訳,国書刊行会.
マーセル・セロー(2012)『極北』村上春樹訳,中央公論新社.
ウラジーミル ソローキン(2015)『ブロの道: 氷三部作1』松下隆志訳,河出書房新社.
ウラジーミル ソローキン(2015)『氷: 氷三部作2』松下隆志訳,河出書房新社.
ウラジーミル ソローキン(2016)『23000: 氷三部作3』松下隆志訳,河出書房新社.
リリー・ブルックス=ダルトン(2018)『世界の終わりの天文台』 佐田千織訳,東京創元社
トマス・M.ディッシュ(1968)『人類皆殺し』深町真理子訳,早川書房.
J.G.バラード(1968)『沈んだ世界』峰岸久訳,東京創元社.
J.G.バラード(1969)『結晶世界』中村保男訳,東京創元社.
ケヴィン・ブロックマイヤー(2008)『終わりの街の終わり』金子ゆき子訳,武田ランダムハウスジャパン.
ウォルター・M・ミラー・ジュニア(1971)『黙示録3174年』吉田誠一訳,東京創元社.
マリオ・バルガス=リョサ(2010)『世界終末戦争』旦敬介訳,新潮社.
フィリップ・ワイリー,エドウィン・バーマー(1998)『地球最後の日』佐藤龍雄訳,東京創元社.

漫画
赤坂アカ『ib-インスタントバレット-』
芦奈野ひとしヨコハマ買い出し紀行
新井英樹『なぎさにて』
大塚英志衣谷遊リヴァイアサン
大家『終末の惑星』
志水アキ『トータスデリバリー』
しりあがり寿 『方舟』
高野千春『終末のマリステラ』
高橋しん最終兵器彼女
つくみず『少女終末旅行
手塚治虫火の鳥
手塚治虫『ブッタ』
堀内厚徳『ベイビー・ワールドエンド 』
道満晴明メランコリア
宮崎駿風の谷のナウシカ
望月峯太郎ドラゴンヘッド
諸星大二郎『未来歳時記バイオの黙示録』
八木ナガハル『無限大の日々』
優『五時間目の戦争』
吉富昭仁『地球の放課後』

参考文献
大木英夫(1970)『終末的考察』中央公論社.
大木英夫(1972)『終末論』紀伊国屋書店.
太田博樹(2018)『遺伝人類学入門』筑摩書房.
太田博樹(2018)『ゲノム編集の光と闇ーチンギスハンのDNAは何を語るか』筑摩書房.
大貫隆(2019)『終末の系譜』筑摩書房.
小川国夫(1998)『聖書と終末論』小沢書店.
小阪修平(1997)『ことばの行方 終末をめぐる思想』芸文社.
五島勉(1984)『ノストラダムスの大予言―迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日』祥伝社.
五島勉(1996)『1999年日本「大予言(ノストラダムス)」からの脱出―終末を覆す』光文社.
五島勉(2015)『ヒトラーの終末予言 側近たちに語った2039年祥伝社.
小林雅一(2016)『ゲノム編集とは何か』講談社.
佐藤敏夫(1991) 『永遠回帰の神話と終末論―人間は歴史に耐えうるか』新教出版社.
斎藤成也(2007)『ゲノム進化入門』共立出版.
斎藤成也(2007)『ゲノムサイエンスーゲノム解読から生命システムの解明へ』講談社.
島田裕巳(2016) 『殺戮の宗教史』東京堂出版.
島田裕巳(2018)『「オウム」は再び現れる』中央公論新社.
高橋 文二 , 広川 勝美他(1996)『終末都市』八幡書店.
野坂昭如(2013)『終末の思想』NHK出版.
山内昌之(1996) 『帝国の終末論―文明と衝突のパラダイム』新潮社.

G・ザウター(2005)『終末論入門』深井智朗他訳,教文館.
アローク・ジャー(2015)『人類滅亡ハンドブック』長束竜二訳,ディスカヴァー・トゥエンティワン.
ジェニファー・ダウドナ、サミュエル・スターンバーグ(2017)『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』櫻井祐子訳,文藝春愁.
シッダールタ・ムカジー(2018)『遺伝子‐親密なる人類史‐上下』田中文訳,早川書房.
ジョージ・エルドン・ラッド(2015)『終末論』安黒務訳,いのちのことば社.